秋元助教の論文がPNASに掲載されました

Akimoto M, Susa T, Okudaira N, Koshikawa N, Hisaki H, Iizuka M, Okinaga H, Takenaga K. Okazaki T, Tamamori-Adachi M.
Hypoxia induces downregulation of the tumor-suppressive sST2 in colorectal cancer cells via the HIF–nuclear IL-33–GATA3 pathway.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2023 May 2;120(18):e2218033120. doi: 10.1073/pnas.2218033120. PMID: 37094129.

 

【本研究の概要】
本研究では、低酸素下の大腸がん細胞でsST2 発現が顕著に低下することを発見し、その分子機構について解析しました。その結果、低酸素下のsST2発現には核内のインターロイキンー33(IL-33)タンパク質が関与していることを突き止めました。IL-33は細胞外で炎症性サイトカインとして機能する一方、核内では遺伝子発現制御に関与すると考えられていますが、その詳細は不明です。本研究では、低酸素下の大腸がん細胞では低酸素誘導因子(HIF)の制御によりIL-33遺伝子発現が亢進し核に移行すること、核に集積したIL-33タンパク質が転写因子GATA3と結合してGATA3によるsST2遺伝子の転写を抑制することを世界で初めて明らかにしました。また、低酸素誘導性のsST2 発現低下は大腸がん細胞株のみならず、ヒトおよびマウスの大腸がん組織中の低酸素領域でも観察され、これが大腸がんの悪性進行を促進する可能性が考えられました。実際、腫瘍組織中では低酸素誘導性のsST2 発現低下に伴い、炎症性ヘルパーT細胞、抑制性T細胞や腫瘍随伴性マクロファージの細胞数の増加および腫瘍血管新生の亢進が認められました。そこで、低酸素に応答して sST2の発現が亢進するようにしたマウス大腸がん細胞を作製してマウスに移植したところ、低酸素腫瘍領域でのsST2発現低下が緩和されると共に、腫瘍の増殖および肺への遠隔転移が効果的に抑制されることが示されました。

 

【本研究の意義】
大腸がんの罹患率および死亡率が世界的に増加する中で、大腸がん治療のための医療は飛躍的に進歩してきています。しかしながら、現代医療によっても、遠隔転移を伴う進行した大腸がんの治療は非常に困難です。本研究では大腸がん組織内の低酸素領域限定的なsST2発現により腫瘍増殖および遠隔転移を効果的に抑制できることを示しました。このことは、大腸がん低酸素領域を標的としたIL-33阻害による治療が実現可能であることを示唆しています。「大腸がんに対するIL-33阻害の抗腫瘍効果」は炎症性の腫瘍内微小環境の改善を基盤としており、この点で殺細胞効果を中心とする従来の抗がん剤とは大きく異なります。したがって、本研究で得られた知見を生かして、将来的に新たなアプローチでの大腸がん治療戦略を確立できる可能性があります。IL-33阻害は転移を伴う大腸がんにも有効であると考えられ、これまで対処不可能であった進行大腸がんに対する新たな治療法の展開につながることが期待されます。

 


概略図:
(A) 低酸素状態の大腸がん細胞。HIFの制御によりIL-33遺伝子発現が亢進する。核に集積したIL-33タンパク質が転写因子GATA3との結合を介してsST2遺伝子の発現を抑制する。
(B) 大腸がん腫瘍の低酸素領域。ここでは、sST2の発現低下と共に、がんの悪性化に関わる炎症性の腫瘍内微小環境(ヘルパーT細胞の分化、腫瘍随伴性マクロファージおよび抑制性T細胞の増加、腫瘍血管形成の促進)がIL-33により誘導される。これに対し、腫瘍低酸素領域中のがん細胞限定的にsST2発現を誘導すると、腫瘍増殖および遠隔転移が効果的に抑制される。

 

本研究に関する情報は、論文紹介サイトKudosのPNAS Showcaseにも掲載されました。詳細はこちらをご覧ください。