シリアの寄木細工

寄木細工の歴史

寄木細工とは、さまざまな色と断面形の木材を棒状にして、寄せて(=束ねて)文様をつくり、薄くカットして箱などの表面に貼り付けて装飾するものです。
日本では箱根の寄木細工が知られていますが、実は寄木細工はヨーロッパ、西アジア、東南アジア、ブラジルなど、世界中でつくられています。

特に発祥の地ではないかと言われているのが、シリアやヨルダンなどの西アジア地域で、数千年の伝統があるとされています。
正倉院の奈良時代の宝物の中には、西アジアに由来すると思われる寄木細工(正倉院では「木画」と呼ぶ)の品々が多数ふくまれています。
宮内庁のウェブサイト「正倉院宝物検索」(https://shosoin.kunaicho.go.jp/search/)で「木画」で検索してみてください。小箱、筆、琵琶(楽器)、碁局や双六局(ゲーム盤)などを見ることができます。

西アジアの伝統の寄木細工は、モスクや教会の内装、テーブルやソファなどの調度品、書見台、ゲーム盤、ウードなどの装飾に使われてきました。
特にシリアの首都ダマスカスは寄木細工の中心地で、2011年に武力弾圧が始まるまでは、たくさんの職人たちがいて多くの専門店が軒を連ねていました。

一方、日本で寄木細工がつくられるようになるのは江戸時代のことです。
まず木工や漆器生産が盛んだった静岡の駿府(すんぷ)で始まったとされ、それが江戸時代後期に箱根の畑宿(はたじゅく)にも伝わります。
多くの旅人が通る箱根で寄木細工がみやげ物として人気になり、主要産地となりました。

東西の寄木細工の特徴

日本と西アジアの寄木細工は、棒状の木片を束ねて文様をつくるという点では共通していますが、寄木の貼り付け方には違いがあります(図1)。

図1 寄木細工の装飾方法

日本の箱根細工は、まず断面が四角や三角の棒状の木片を束ねて接着した「種木」をつくって、それを横にいくつも並べて連続文様になるようにくっつけた「種板」をつくり、鉋(かんな)で紙のように薄く削ってシート状にした「ずく」を、木製品の表面に貼り付けて装飾します。

西アジアの寄木細工では、種木をつくるところまでは同じですが、それを薄くスライスして、金太郎あめのように同じ文様のピースをたくさん作り、それを木製品の表面に並べて貼り付けます(図2-3)。
大きな表面を装飾するには、あらかじめパーツの配置を綿密に計算しておく必要があります。

図2 シリア寄木細工の種木(写真はダマシュキエ提供)

図3 シリア寄木細工の作業風景(アブアベド氏のアンマンの工房。写真はダマシュキエ提供)

また、箱根細工も西アジアの寄木細工も、木を着色したりせず、自然の色を生かして文様をつくる点では共通しています。
しかし日本と西アジアでは手に入る木が違うので、当然ながら寄木細工の素材につかう樹種も異なります。

箱根細工では、白はアオハダ、モチノキ、黒はクリジンダイ、コクタン、赤はパドゥク、緑はホウノキなどが使われます。
西アジアの場合、白はカエデ、黄はレモン、茶色はオリーブ、クルミ、赤はチェリーウッド、ピンクはユーカリなどを用いるそうです。

図4 企画展「シリアの伝統工芸」展示品より、チェス盤(アブアベド氏製作)

参考文献

金子皓彦 2019「寄木細工物語」『世界のYOSEGI 金子皓彦寄木細工コレクション』4-10頁、致道博物館。

関根由子・佐々木千雅子・指田京子 2021『47都道府県伝統工芸百科』丸善出版。